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      ”小老奮闘記  第3話 "

                                 伊藤 諭

 

      ”Wがんとの死闘”

 
 1.はじめに
 
   当会報・双錨22号及び双錨26号に小老奮闘記第1話、第2話を掲載させて頂き
  ましたが、第1話は”バナナ叩き売りST保存会”のNPO法人化、第2話は”東京
  2020オリンピック・パラリンピック大会”のマスコットデザイン募集に応募した、
  言わばチャレンジした奮闘記でした。
     この度は昨年の夏から今年の春先までの約8ヶ月間に亘って、罹患したことが判明
    した複数の”がん”と死闘した戦いの物語です。
  題して”Wがんとの死闘”として、ここに紙面を拝借してその顛末を拙文ながら
  綴ってみました。
   ここでいう”Wがん”とは前立腺がんと膵臓がんです。両者とも高齢者が罹患しや
  すいがんで5年生存率は前立腺がんではほぼ100%近いが、片や膵臓がんでは
  10%前後と極めて低く、両極端のがんです。しかもそのがんを前述の様に昨年の
  夏から8ヶ月間の期間内にほぼ同時、並行的に罹患したという事です。
   ”常在戦場”を座右の銘としている私としても、この両者が、しかもほぼ同時期に
  発覚し治療するなど想定外の事でした。ここは”常に戦場にいるが如し”と、腹を
  括って戦った日々の物語で、正しくノンフィクションです。それを時系列的に記述し
  ていきたいと思います。尚、文中の医療関係の内容についてはネット上等で得た、に
  わか勉強の知識です。又、表示している金額は一割負担をした場合の医療金額です。

2.前立腺がん

 (1)前立腺がんとは:

   前立腺はクルミほどの大きさの男性特有の器官で膀胱のすぐ下、尿道を取り囲むよ
  うに、通常3−4cm程度の大きさで精子の運動及び円滑な移動を助ける前立腺液を
  産生する臓器です。
   前立腺がんは多くの場合、自覚症状はないが進行すると、尿が出にくい、尿の切れ
  が悪いといった症状が現れ、また骨やリンパ節に転移することが多く、腰痛や背部痛
  等により整形外科を受診した際にレントゲン撮影し、影が見つかるというケースも
  あります。
     前立腺がんは典型的な高齢者のがんで、我が国では増加の一途を辿り、2019年
  の統計によると大腸がん、胃がん、肺がんを超えて男性がん罹患率の第一位となって
  います。一般に死後の病理解剖で死亡に影響しない小さながんが30−50%の人に
  見つかると言われています。
   前立腺がんの診察は泌尿器科で受診し、その流れは、診察(問診)→血液検査→
    直腸診→超音波検査→MRI検査→組織検査(生検)→画像検査となります。
                                                                 
 (2)事の発端:
    2022年
    ◎ 7/5:毎年この時期に千葉市定期健康診査を近くのクリニックで受けるのが常で、
        通常の人間ドックの簡易版で血液検査の検査項目も少なく、希望でPSAの項目を
        受けることが出来る。(但し、この項目は有料)
      * PSA検査は前立腺がんを早期発見するための最も有用な検査で、がんや
              炎症により前立腺組織が壊れるとPSAが血液中に漏れ出して増加する。
              血液検査でPSA値を調べることによって前立腺がんの可能性が判る。
              PSA基準値は”4.0以下”であれば正常とみなされる。
      PSA値が前立腺がん発見の決め手になるとの知識は以前から持っていたので、
           自主的に2016年(74歳)の検診でこの項目を受けた結果は”2.99”と
           正常であった。その後3年毎位で受けるつもりでいたが、コロナ禍もあり止
           めていた。しかし80歳を迎えた昨年(2022年)に血液検査の項目に
           PSAを追加した。
    ◎7/11:血液検査の結果が出たのでクリニックへと行った。 
    医師から示された検査結果は”11.9”と基準値をはるかに超えた値であった。 
    自覚症状等はまったく無かったのに、これは大変と早速、総合病院宛に紹介状を
    書いてくれた。

 (3)診察と検査:
    ◎7/12:紹介状を携えて総合病院の泌尿器科を訪ねた。
    簡単な問診の後、直腸診、血液検査、尿検査、超音波検査を受けた結果、
        PSA値は”13.8”で直腸診や超音波検査においても、何か腫瘍の存在が疑われる
        との事で、MRI検査を受ける事となった。
     *直腸診: 
       肛門から直腸に指を入れて腸の壁越しに前立腺に触れて、しこりや表面の
       凹凸等を調べる検査。
     *超音波検査(エコー検査): 
       体の表面から超音波を当て体内の臓器からはね返ってくる超音波を画像と
       して映し出す。ある程度の精度でがんのある場所や、がんの形、大きさ、
       がんの周辺臓器との関係等を確認する検査。
     ◎7/22:MRI検査を受ける。
     *MRI検査:(¥1,500.-)
       磁気を使用して体の内部の断面を様々な角度から画像にして、がんの有無
       や、がんがどこまで隣接した臓器やリンパ節に転移しているかどうかを確
       認する検査。
    ◎7/26:これまでの検査を踏まえての説明あり。
    血液検査でのPSA値は”13.8”で、直腸診検査、超音波検査でもがんの疑いが見
    られ、更にMRI検査の画像でも19.7mmサイズの黒い影がみられたので、明らかに
    がんの存在が確認された故、当院より専門度の高い病院を紹介するのでそこでの
     治療を勧められた。そこで私は大学病院よりがん治療に特化した病院でしかも
        自宅から近い”千葉県がんセンター”をお願いし、紹介状を書いて貰った。
     ◎8/15:”千葉県がんセンター”の泌尿器科を訪ねると、前立腺チームの医師が
        担当する事となった。
    紹介状の封筒には前述の病院で受けた検査結果や画像が記録されたフロッピー
    が同封されていたので、医師はそれを参考にして、血液検査と尿検査を行い
    又、入院(生検)を想定して心電図検査とX線検査を受けた。
     ◎8/29:前述の病院の診察、検査、画像結果をベースに再度説明があった。
    がんの存在は明らかなので、その悪性度を確認する為に入院(1泊2日)し、
    生検検査をうける事となった。
         *生検検査:
       前立腺がんの悪性度を判断する為に組織を採取し、顕微鏡で形や並び方が
       正常な組織と、どれくらい異なるかを病理診断する検査。

 (4)入院・生検手術:(\ 18,900.-)
     ◎9/7-8:7日の朝入院し午後に生検手術を受けた。
    事前準備をし病棟から看護師に付き添われ点滴スタンドを引いて歩いて手術室へ。
    腰椎麻酔をし、術式は”径会陰的前立腺生検(MRI/超音波画像融合生検)”で、
    超音波画像とMRI画像を融合し、がんが疑われる箇所を明確にし、そこに会陰部
    から自動生検針という針を刺し、組織を12本採取した上で、膀胱へカテーテル
    (尿道管)を留置し終了、(手術時間は約30分)
        ベッド上で点滴と尿道菅をした状態で病棟に戻る。 
    3時間は絶対安静をし、その後は飲水と軽い食事をしてベッド上で過す。
    翌朝、点滴を終え、尿道管を抜去した。
    抜去後、最初の尿を尿器に採尿し、看護師が肉眼で確認して濁り等の異常が
    無かったので退院となった。    
     ◎9/15:生検結果についての説明。
    12本の検体を病理組織診断をした処、数本の検体に腺がんが認められたので、
    前立腺がんと診断した。また、グリソンスコアは4+5の8−10と評価された。
          *グリソンスコア:
        生検で採取した検体のがん組織の悪性度を調べ点数化したもの。
               正常組織に近い場合を1点,最も悪性度の高い組織を5点とする5段階で
        評価し、最も多い組織像と2番目に多い組織像の点数を合計した数値。
 
 (5)追加検査:
     ◎9/22:がんが体内でどの様に拡がっているか(進行がん)、他の臓器に転移が
        ないかを調べる為にCT検査及び骨シンチグラフィー検査を受ける。
      *CT検査:(\ 1,100.-)
        X線を使って、体の横断面を画像にし、肝臓、膵臓、腎臓、リンパ節等へ
        のがんの転移はないか、異常はないか、また、肺へのがんの転移の有無
        等の検査。
      *骨シンチグラフィ―検査:(\ 5,500.-)
        放射性物質(ラジオアイソトープ)の薬剤が、病変のある骨に
        集まる性質を利用して、静脈に注入し3−4時間後、特殊なカメラで
                撮影し画像にして全身の骨を調べる検査。
    ◎10/3:これまでの診察、検査、画像診断、病理診断(生検)を踏まえての病状と
         治療の選択肢の説明あり。

  (6):病状:   
    (A)TNM分類(世界共通のがん進行度の分類)
          T3a:前立腺を超えて浸潤あり。
          NO :骨盤、リンパ節等への転移なし。
          MO :遠隔、肺、肝臓等への転移なし。 
      (B)PSA値:10以上20未満   
      (C)グリソンスコア:8から10
     最終診断は病期(ステージ)T3aNOMOのV期で臨床的限局性(進行性でない)
     高リスク分類と告げられた。

 (7)治療:     
         他の臓器への転移がない病期(ステージ)T3aNOMOなので治療の選択肢としては
     手術、放射線治療、ホルモン治療(内分泌治療)があるが、年齢等を考慮して
     ホルモン治療を勧められた。
      私は、即、同意し同日ホルモン治療を始めた。
     
           *前立腺がんの手術は泌尿器科の中では副腎や腎臓に比べて非常に難しい
            手術といわれている。前立腺は膀胱や尿道括約筋と繋がっているので、
        一度、これらを切り離し前立腺を摘出した後、再度、膀胱と尿道を繋げ
        て再建する必要がある。また前立腺の周囲を取り巻く血管や神経を傷つけ
       ないようにせねばならないから往々にして尿失禁等の合併症が生じやすい。
       従って、手術療法は本人の余命、治療による生活の質の低下(尿失禁)、
              医療費等を考慮して一般的に70歳以上の高齢者は手術対象外とされて
              いる。
      *ホルモン治療(内分泌療法):
          前立腺がんは男性ホルモンに依存して成長するため、がんの成長を促す
       ホルモンの分泌を抑えたり、ホルモンががん細胞に作用するのを抑えた
       りすることで、がんの増殖を阻害する治療法。
              実際の治療: 
            注射薬:(\4,800.-)
         3ヶ月毎に下腹部皮下注射をして、精巣からの男性ホルモンの分泌
         を抑制する。
         内服薬:(\1,800.-3ヶ月分)
         毎日1錠を服用し、男性ホルモンが前立腺に働くのを妨げる。
       これらを併用し、定期的に血液検査でPSAと他の項目を測定し、
              その値を観察し診察。
     ◎10/31:ホルモン治療開始から約1ヶ月が過ぎたので血液検査。
     PSA値は”1.641”と下がり基準値以下となった。
     ◎12/26:ホルモン治療開始から約3ヶ月後、
     PSA値は”0.063”となり治療効果あり。
   この治療を継続し経過観察していく事となった。
   このがんが発覚してから、諸検査、手術等で体重が約2kg減少した。

 3.膵臓がん 
  (1)膵臓がんとは:    
         膵臓は胃の背側にある20cm程の細長い臓器で、体の位置の右側から頭部、
     体部、尾部と分けて呼ばれ、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆のう、脾臓
     などに囲まれている。膵臓には膵管という細長い菅が張り巡らされており、
     食物の消化を補助する膵液(消化液)の産生と血糖値の調整などをするホルモ
     ン(インスリン)を産生する機能がある。
      膵臓がんは早期の状態では自覚症状はほとんど無く、断続的に胃が痛み、
          かかりつけ医を受診しても原因がわからない、背中の痛みから整形外科を受診
          しても原因がわからないといったケースが多い。
          少し進行してから食欲不振、腹痛、腰や背中の痛み、黄疸、又は糖尿病の発症
          や悪化が発見のきっかけとなる場合がある。
           症状が現れて受診する多くは進行がんと診断される。膵臓がんと診断された 
     段階で手術治療が可能な患者は全体の20−30%程度といわれている。膵臓
     がんはこの様に早期発見が困難だけでなく、進行が極めて速い、たちの悪い難
     治がんである。
        検査・診察の流れは、一般に、血液検査→腹部超音波検査→CT検査→MRI検査
          →超音波内視鏡検査→Pet-Ct検査等、または複数の併用検査等の各種の検査
     結果から総合的に判断され診断されて病期(ステージ)が確定される。   
     即ち、がんの進行度や拡がり、リンパ節や他の臓器への転移などの状態に
          よって病期(ステージ)と呼ばれる分類がされ治療方針が決定される。

  (2)事の発端: 
      ◎10/3:前述の前立腺がんで9/22に受けたCT検査について、10/3に説明されたその    
     画像の中に膵臓がんの疑いがあると指摘され、詳細を検査する必要があると告
          げられて、院内の消化器内科を紹介された。
     尚、これは前立腺がんから転移したのでなく、関連性のない別のがんであると。

 (3)診察と検査:
     ◎10/7:紹介された消化器内科を訪ねた。
     泌尿器科で受けた前立腺がんに関する検査や診察結果、画像等のデーターは 
      全て共有されているので、早速、問題のCT画像を示して担当医師から
      膵臓の断面画像で膵管が異常に拡張しているのが確認されるのでがんの疑い
          が強いと。
     膵臓がんは多くの場合、膵管から発生すため、これにより主膵管という膵液
      が集まる菅が詰まってしまことがあり、作られた膵液の行き場がなくなり
          内圧が上昇し、膵管が拡張するという現象が起きると。
     依って、その疑いを明らかにするために種々の検査を行う事となった。
     ◎10/12:いきなりMRCP検査と超音波内視鏡検査(EUS)を受けた。
      その結果、膵管の拡張は見られるががんの確認は得られず。
             *MRCP検査:(\2,600.-)
        MRI検査の一種で膵管や胆管のみを抽出するので、膵管の観察に優れ、
        主膵管や分枝膵管の拡張、狭窄、途絶、それに膵臓の萎縮の検査。
             *超音波内視鏡検査(EUS):(\1,600.-)        
        超音波装置を内視鏡の先端に取り付け、胃や十二指腸の臓器の壁を
                介して直接膵臓を観察する検査。
     ◎10/14:造影CT検査を受けた。
        その結果、特に異常は見受けられなかった。
       *造影CT検査:(\2,400.-)
                 造影剤を注入してのCT検査であり、通常のCT検査でのがんの有無 
         や拡がり、リンパ節への転移や周りの臓器への浸潤の確認に加えて
         膵臓や血管状態を詳しく調べる検査。 
     ◎10/19:これまでの検査では、がんの確証は得られてないが、それでもがんの疑いは
        消せないのでPet-Ct検査を行う事となった。
    ◎10/24:Pet-Ct検査をうけた。 
       *Pet-Ct検査:(\8,100.-) 
        がんがブドウ糖を良く取り込む性質を利用し、ブドウ糖に似た薬剤
              (ラジオアイソトープ)を注入し病変に集まるのを画像化。がんの有無
        や拡がり位置を、他の臓器への転移がないかを高精度で診断する事が
          できる.要した時間は約3時間で、他の検査に比べて検査料が高額。
     ◎10/26:Pet-Ct検査でも異常は見られず。
     磁力を用いたMRCP検査、音波を利用した超音波内視鏡(EUS)検査、X線
     を利用した造影CT検査、ラジオアイソトープを利用したPet-Ct検査等の 
     最先端の機器を駆使しての検査・診察でも確証たるがんは発見されなかった。
     しかし、医師の所見では主膵管の異常拡張が見られる事から、がんとは言い
     切れないが、何か腫瘍があるのは間違いないし、その腫瘍の箇所は膵臓の体
     部から尾部にかけての可能性が高いと。それで1ヶ月置いて再度、
        超音波内視鏡検査(EUS)をしてみる事となった。
        一説には森を見る検査はCT,MRI検査で、EUSは一本の木をみると。
      ◎11/24:再度、超音波内視鏡(EUS)検査を受けた。
     その結果は変わらず同じであったが、依然として主膵管が正常状態より
     かなり拡張しており、その状況から膵体部に何らかの腫瘍があり、がんの
     疑いは消せないと、また、それががん化していなくても将来、がん化する
     可能性が高いと。依ってその腫瘍が膵体に留まっている内に、しかもまだ
     体力がある内に、切除手術を勧めたいと告げられた。
      私としては定期的な検査を受け経過観察をと迷ったが、検査のその都度
     一喜一憂し、挙句の果てはがんが進行して 、後悔するよりは、ここは一つ
     腹を括って手術を受ける事とした。当院内の肝胆膵外科を紹介された。

 (4):病状:
   ◎12/2:肝胆膵外科を訪ねた。
       採血、採尿検査を受け、その後、新たな担当医師より共有されている
             これまでの診察、検査、画像を確認しながら説明あり。
       間違いなく膵体部がんの疑いがあると。
        病期(ステージ)としては”T1aMONO”に該当する告げられた。 
       (前述の前立腺がんの場合と同様の分類式)
        手術についての詳細は12/15日に説明すると。

  (5)入院と手術:   
    ◎12/15:手術前検査として心電図、X線検査、呼吸機能検査を受けた後、
        手術についての説明あり。
      ・入院日:1月11日     ・手術日:1月13日     
      ・手術式:全身麻酔で開腹手術により膵体尾部脾臓合併切除術。
      ・手術時間:約3時間     ・入院期間:2−3週間

    * 膵臓の切除法は主に3種類あり、膵臓の右側(膵頭部)に腫瘍がある場合は
     膵頭十二指腸切除術、左側(膵体部、膵尾部)にある場合は膵体尾部切除術を 
     行い脾臓も一緒に切除する。膵臓全体に拡がっている場合には膵臓全摘出術を
     行う。
        * 膵頭十二指腸切除術は膵臓の膵頭部、十二指腸、胃の一部、胆のう、胆管を周
     囲のリンパ節や神経と一緒に切除し、切り離した膵臓、胆管、十二指腸、胃は
     夫々小腸と繋ぎ合わせ、再建を行います。腹の手術の中では最も複雑で難易 
     度の高い手術の一つである。手術時間は6−8時間、入院期間は4−6週間を
     要し、また、合併症も膵液漏等の発症の頻度が高い。              
    * 膵体尾部切除術は膵尾部と、接している脾臓を一緒に切除する。膵頭部十二指
     腸切除術との大きな違いは臓器と臓器を再度つなぐ再建も必要ないので、
     難易度はかなり低くなり合併症も発症度が低く、手術時間は3−4時間である。
     また、脾臓を摘出しても他の臓器、特に肝臓が代って免疫機能を保ってくれる。
  
  2023年
    ◎1/11:午前中の入院となり、諸手続きをして入院病棟へ 
       手術前検査として心臓超音波検査(心臓の機能検査)と胃内視鏡検査(EUSと 
      は異なり食道、胃、十二指腸の状態の検査)を受け、更に口腔ケアのために
      院内の歯科へ(全身麻酔時の気管挿菅・人口呼吸器の菅が口や鼻を通して気管
      の中に入る際に歯が折れたり、抜けたりしないように)。その後、手術関連に 
      ついての説明を看護師より受ける。
    ◎1/12:全身麻酔についての詳細説明を麻酔科で受けた。 
      動脈から採血された。その後点滴が開始され、それからの行動は点滴スタン
      ドと共にする事となる。
    ◎1/13:朝の9時過ぎに看護師に付き添われ点滴スタンドを引いて歩いて
       手術室へ。
       手順通り手術が行われ昼過ぎに手術が終了し、全身麻酔がとれた時点で
        医師から無事終了したと告げらた後、そのまま集中治療室へ移動した。
       気が付いたら、背中に痛み止めのカテーテル(細い管)、鼻からは胃への
       菅、口からは酸素吸入菅、尿道には尿管、腕には点滴、脇腹にはドレーン
       菅(腹の中の貯留物を排出する管)等が入れられ、更に静脈血栓予防の
       マッサージ機器の弾性ストッキング(フットポンプ)が装着された、全く 
       身動きができない状態で、その集中治療室で治療観察された。      
       翌朝までの時間、これまでの人生の中で最も長く感じた一昼夜でした。
    ◎1/14:朝、8時頃から体温、脈拍、血圧、血糖値、パルスオキシメーターによる
       血中酸素飽和度等が測定され、フットポンプは外された。
       そして、ベッドに寝た状態でレントゲン撮影が行われた。(腹内の臓器
       状態を観察のため)、それが終了したら元の病棟へベッドと共に移動。
        その後は、真夜中を除き、毎日数時間毎に体温、血圧、血糖値、血中酸
       素飽和度等の測定が行われた。
                日が経つにつれ鼻から胃への管、口からの酸素吸入管、尿道の尿管等が
       順次抜去された。背中の痛み止めカテーテルも抜去され、代わりに痛み止
       め錠剤を8時間毎に服用する事となった。
        脇腹からのドレーン菅は毎日廃液の検査があり1週間程経つと廃液の量
       も減り、検査をへて問題ないとの事で抜去された。ほぼ同時に点滴も終了
       となり、これで全ての管が取り除かれたので身軽になりシャワーも浴びる 
       事が可能となった。
        レントゲン検査と血液検査は数日毎に行われ、レントゲン検査は指定さ
       れた時間に画像診断部に行っての検査であった。
        食事は数日間は点滴のみで4日目程からヤクルト1本と栄養剤が入った
       飲料1本の食事が続き、点滴が終了してから主食がお粥で副食3皿程の
       食事となった。この食事に変わって減少していた体重が止まった。手術
       前と比較して約5s減り、昨年夏の前立腺治療開始から通算7kgの減量
       となった。
        問題はこの食事だが、膵臓の略2/3と脾臓が切除されため、腹の中で
       その分のスペースが空き隣接している胃の活動がおかしくなり、食べた
       物が胃に停滞しやすく、食欲はあるのに胃が詰まった様な感じとなり充分
       な食事が摂取できない状況が続いた。それでも少しずつではあるが改
       善していった。しかし完全に復調するには数か月要すると言われた。
        術後、2週間近くなった1/26日に血液検査とレントゲン検査を受けた
       処、特に問題なく順調に回復していると医師から告げられ,翌1/27日 
       退院可能となった。
     ◎1/27:待ちに待った退院が可能となり朝から帰り支度をしていたら、当番の
       看護師が”誰か付き添いの方か、お迎えの方が来られてますか”と聞かれ    
       たので、”タクシーとか乗らず、一人でバスと電車に乗って帰る、タクシー
       に乗るのは呑み屋から帰る時だけだ”と言ったら、けげんそうな顔をして  
       いた。
        私は当院での前立腺がんの生検手術や膵臓がんの手術において、医師
       からの説明での付き添いや、手術の際の立ち合い等全てなしで、一人で
       対応してきた。、勿論、家族にはその都度報告していたが。
        私としては、これは”常在戦場”の気構えで野武士の心情です。
       あたかも現役時代・サーベイのオーダーがあれば、国内であれ海外であれ
       カバン一つ提げて一人で赴くに似たりかなと。

        全て支度が終わり、ナース・ステーションに居た十数人の看護師の
       皆さんに大声で”大変お世話になりました”と言って頭を下げたら、
       皆さん少し驚いて一斉に立ち上がり”お大事に”と言ってくれた。 
       その後、会計部で費用の支払いを済ませ帰宅した。
       (医療費そのものは高額療養費制度を適用して \57,600.-であった。)

  (6)治療:
    ◎2/9:術後約2週間が過ぎたので、経過観察として血液検査と診察を受けた。
       血液検査は血糖値を含め他の項目についても、特に問題も無く良好で
       あった。
        手術で切除した病変部を顕微鏡等で病理学的検査した結果を拡大した
       画像を示しながら説明された。
       それによると、確かに膵管部に腫瘍が点在し、中にはがん化しているのが
       見受けられた。この点在した微小な腫瘍のがん化はPet-Ct検査でも検知 
       できなかった。
       最終確定診断は”早期膵管内乳頭粘液性腺癌”と確認された。
        今後は定期的に血液検査をして、血糖値で膵臓からのインスリン分泌
       状態や分析項目から他の臓器の状態を経過観察していく事となった。

 4.おわりに       
     当年とって80歳、健康老人として自負してき、家系にがんの罹患者もない、
     自覚症状も全くない身に、突然と降って湧いたように前立腺がんと膵臓がんに
    罹患していると判明した際には、いやはやかなりのショックでした。これまでの
    暴飲暴食の付け、はたまた親の因果か。
          しかしながら、担当医師方々の懸命なる診察・治療と、献身的に尽くして頂い
    た看護師の皆さんのお陰で、なんとかこの程度で済みました。この紙面をお借り
    して心よりお礼申し上げます。
     これから”どうする伊藤諭”と問われれば、この”Wがんと”と上手に付き合い
    ながら、以前通り家庭菜園をし、宝くじを買い、気が向けばフルートを奏でたり
    して過し、又、”バナナ叩き売りを一丁やってくれ”と声が掛かれば、どことなり
    馳せ参じ実演したりと。 それと、何十年も毎日欠かすことのなかった”晩酌”
    は昨年の夏の前立腺がん判明以来、中断していましたが、懲りずに今度はノン
    アルコールのビールやワインを取り交ぜながら、量を控えてのチビリ、チビリの
    ”晩酌”で復活させたいと思います。  
     それでも、どうすると問われれば、”空に浮かぶ、流れゆく雲に聞いてくれ”
     って、とこでしょう。

     最近の医療技術はITを駆使して日進月歩していますが、それでも自覚症状
          が出てからの、がんの発見では、すでに相当に進行している事が多く、救える
      命も救えないとか。
     それを防ぐには早期発見です。前立腺がんでは血液検査でのPSA値、膵臓がん
          では超音波検査やCT検査等を機会を捉え勇気を持って受診する事が肝要かと。

      以上、長々となりましたが、この奮闘記が方々の人生100年の中で、何かの
         お役にたてれば、幸甚に存じます。

                                    おわり    


   尚、参考までに:

    * 国立がん研究センターによる部位別の男性がん罹患者数の順位と
      死亡者数の順位。
    * 全国がんセンター協議会による部位別の治療開始からの5年生存率と
      10年生存率を下記します。


        がん罹患者数の順位      がん死亡者数の順位
               (2019年)                 (2021年)

   1位:    前立腺             肺       
   2位:    大腸            大腸
   3位:     胃             胃 
   4位:     肺            膵臓  
   5位:    肝臓            肝臓


                5年生存率     10年生存率        
          (2011-2013年)    (2005-2008年)

     前立腺:    100  %                99.2 %      
     大腸 :    76.8 %                69.7 %
     胃  :    75.4 %                67.3 %
     肺  :    47.5 %                33.6 %
     肝臓 :    38.6 %                17.6 %
     食道 :    50.1 %                34.4 %
     腎臓 :    71.0 %                63.3 %
     膵臓 :    12.1 %                 6.6 %
                                                     



 

    


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