直線上に配置

小老奮闘記”

                                 

                                  伊藤 諭

 

 だらだらと馬齢を重ねて、今年は私にとって6回目の干支“午”の年を迎え“年男”となりました。これといった病も患うことなく息災にこれた幸運に、ひたすら神、仏に感謝するのみです。日頃は千葉の里山で心静かな日々を送っていますが、それでも時折、喧騒とした都会に出てきては“バナナ叩き売り”ST保存会として各イベントに参加したり、介護施設等での“老老慰問・老人が老人を慰問”等の活動をしております。

 そこで思い出したのが、前々年に“古稀”を迎えました際、この節目の年にST保存会も何か特別な事をせねばと模索、奮闘した事でした。ここに紙面を拝借してその顛末を、題して“小老奮闘記”とし、以下綴ってみました。その奮闘記とはこの“バナナ叩き売り“で海外に打って出てはと考え奮闘した物語です。  

 ご存じの通り海外では日本人会等の駐在員家族の親睦会があり、年中行事として七夕祭りや盆踊り大会等の望郷の念を起させるイベントが催しされますが、これらは、特にその国に永住された人々にとっては、楽しみな行事のようです。そこで我がST保存会もそれらに参加して、忘れかけてゆく大衆大道芸を現地邦人の人々に披露したいと考えた次第です。

 そこで、その参加をオファーする為には次の事が必要と考えました。

*先ず先方(現地主催者)に信用を与えなくてはならない。それでなくても“バナナ叩き売り”と言うだけでも何か胡散臭い者と思われるがちです。それにはやはりST保存会をNPO法人にして社会的信用を得やすいようにすべきと。

*渡航費用等の諸費用を先方が負担する訳がないから、これは我々の自己負担となる。しかし我々にはそんな財力も無いし、またスポンサーもいない。そこで頼りとしたのが日本財団グループ団体の役員をしている私の友人である。彼は以前、日本財団で助成事業を担当する部長の経験があったので、我々の企画を彼のアドバイスを得て申請すれば、必要額の助成金が得られるのではと。

 

  この2点をクリアすれば実現可能と考え、早速その準備に取り掛かりました。

 

  1.NPO法人設立に向け先ず行ったのは、インターネットでの予備知識の習得と全国組織の某NPO法人の役員をしている知人からのアドバイスを受けその上で、千葉市主催の“NPO法人をめざす方”をテーマーにした講習会を受講した。これらから、設立及び認定までの手続きや必要書類の作成と、それに設立後は事業年度毎に事業報告書等の書類一式を所管官庁へ提出せねばならない事など一連の作業の流れは理解できた。このNPO法人とは特定非営利活動促進法(NPO法)に    基づき設立、申請等は無料である。しかし基本的には一般の法人と変わりなく種々の基準・要件が設けられその義務が課せられている。書類作成に際してはインターネットでいろんなNPO法人が作成、提出している書類を閲覧し、それらを参考にしてST保存会なりの内容の書類を作成できる段階にき、何とか所官庁へ申請出来る目処がついたのである。しかし要件の中で一点だけ気になる事があった。それは税務上、特定非営利活動であっても、その態様が税務上収益事業に抵触するものであれば納税義務が発生する事になるとのことであった。この態様とは我々の実演の中では、バナナをある値で売り渡す事であり、また何がしかの実演料を受け取る事である。

この点を所轄庁の設立申請受付けの担当者に照会した処、判断しかねるので直接税務署に聞いてくれとの事であった。早速最寄りの税務署に電話してみた処、担当官曰く、収益事業から生じた所得に対しては国税と地方税が課税されると。収益事業には34業種があり、態様ではバナナの売り渡しが物品販売業、実演料が興行業に該当すると。これらは例え小額で、しかも営利を目的としない寄付として受け、活動費に充当させても、行為そのものが所得とみなされるところからケースバイケースの中で吟味の対象となるとの事であった。これでは事業年度毎に事業報告書を提出する際、その都度説明を求められる事が予測される。我々はその為の書類整備等の手間・労力の費用対効果を検討した結果NPO法人化を断念する事にした。

 因みに、千葉県、千葉市でのNPO法人登録数は2千件近くあるが、その中で大道芸に類する同好会、団体等でNPO法人を登録しているのは皆無であった。これはやはり税法上のこの点がネックとなっているのではないかと思われた。

 

2 一方、並行的に進めていた日本財団からの助成金については前述の役員である友人に、我々が企画している事業に対し、助成金供与の対象となりうる可能性が有や否やを個人的に打診してみた。その企画とは即ち、海外駐在の家族、特に移民としてブラジル等の南米に渡り長く住んでいる多くの人々に、かって日本で四季折々の祭りで観た啖呵売り(大道芸)の中の一つである“バナナ叩き売り”を披露して、祖国日本の古き時代の香りを感じで、懐かしく思い出すひと時を提供したい。就いてはそれに掛かる渡航費、宿泊費等の諸費用を日本財団からの助成金で賄いたいがと。これに対し趣旨としては理解されたが、日本財団が補助、助成金の対象とする中には伝統文化の保存、芸術の振興の分野も確かにあるが、支援実績としては能、狂言の伝統文化普及活動や民族芸能、郷土芸能の保存という内容であると。彼の意見では伝統芸能であっても昔の商売に直結するようなもの(ガマの油売り等)や趣味の延長と考えられるものは実績も無ので、助成金をうけるのは難しいのではないか、との事であった。

これらから判断して、我々ST保存会はNPO法人か否に拘わらず日本財団に助成金申請しても審査の対象にはなりえないとの結論に達したのであった。                                       

 以上、年寄りが暇にまかせ、もがきながら、我々ST保存会の海外への道はないかと模索し奮闘したが、はかない夢と終った話でした。

 

 思うに、やはり私などは、里山でひっそりと余生を送りながら、時折、世間の人々に忘れ消えゆく大衆芸能(大道芸)の一つである“バナナ叩き売り”を披露してゆくのが、分相応の生き様かなと。それでも、“軒先の畳一畳を貸すから、一丁やってくれ”との声が掛かれば“フーテンの寅さん”でお馴染みの茶色の古ぼけた革カバンさげて山越え、海越えて何処へでも馳せ参じますぞ!

 

 

 


直線上に配置 *******はじめにもどる*******