|
会 派 名
|
政治路線
|
主な加入政党
|
親EU
|
EPP(欧州人民党グループ)
Group of the European People's Party
(Christian Democrats)
|
Centre-right
キリスト教の価値観に基づく保守中道
|
キリスト教民主同盟CDU・キリスト教社会同盟CSU(独)
共和党(仏)
|
親EU
|
S&D(社会民主進歩同盟グループ)
Group of the Progressive Alliance of
Socialists and Democrats in the European Parliament
|
Socialists and Democrats
社会民主主義に基づく左派中道路線
|
社会民主党SPD(独)
社会党(仏)
|
親EU
|
EFA(欧州緑グループ・欧州自由連盟)
Group of the Greens/European Free Alliance
|
Greens
環境保護を重視する左派中道路線
|
緑の党(独)
|
親EU
|
ALDE&R(欧州自由民主同盟グループ)
Alliance of Liberals and Democrats
|
Liberals
自由市場経済を重視する新自由主義路線。中道路線
|
FDP(独)
共和国前進REM(仏)
|
EU批判派
|
GUE-NGL(欧州統一左派・北方緑の左派同盟グループ)
Confederal Group of the European United Left
- Nordic Green Left
|
Left
民主的社会主義、左派路線
|
左翼党(独)
ポデモス(スペイン)
スィリザ(ギリシャ)
|
反EU
|
ECR(欧州保守改革グループ)
European Conservatives and Reformists Group
|
Conservatives
右派ポピュリスト
|
法と正義(ポーランド)
|
反EU
|
EFD(自由と直接民主主義のヨーロッパ)
Europe of Freedom and Direct Democracy Group
|
Populist and
Eurosceptic groups右派・左派ポピュリスト
|
AfD(独)
五つ星運動M5S(イタリア)
ブレグジット党(英)
|
反EU
|
ENF(国家と自由の欧州)
European Free Alliance
|
Right-wing nationalists
右派ポピュリスト
|
国民連合RN(仏)
同盟Lega(イタリア)
自由党PVV(オランダ)
|
|
NI(独立派)
|
Independent MEPs
|
|
|
その他
|
New or unaffiliated MEPs
|
|
3.欧州における最近のポピュリズム政党の動向
(1)オランダ
2017年3月の総選挙では、「反移民」や「反イスラム」など
を主張する「自由党(PVV)」が第一 党となるかが注目されたが、 結果的にはルッテ首相が率いる
与党「自由民主国民党(VVD)」が 第一党の座を維持し、自由党は議席数を増やすにとどまった。 しかし、ルッテ首相は総選挙を前に自由党の党勢が強まる中で、オランダ社会への統合を拒む一部移民に対して厳しい態度を示す(自由党の主張を取り入れる)ことで、反移民感情を強める有権者の支持を繋ぎ止めたと言われている。
(2)フランス
2017年の4月〜5月に行われた大統領選挙では、「国民戦線(FN)」のルペン党首が、「反移民」「反 EU」を掲げ、EU離脱を問う国民投票の実施を公約して支持率を伸ばしたことで注目を集めたが、決選投票に進出したルペン氏を親EU 派のマクロン氏が破り、直後の6月に行われた総選挙でも同氏が率いる「共和国前進(REM)」が圧倒的議席数を獲得して勝利を収めたことから、国民戦線を含むポピュリズム政党は一旦勢いを失う形となった。しかし、財政赤字是正に向けた各種補助金の抑制方針や燃料税の引き上げ、更には相次ぐ閣僚の辞任が嫌気され、マクロン政権の支持率は2018年12月時点で 23%まで低下している。一方、ルペン党首が率いる「国民連合RN(国民戦線FNが改名)」は再び支持率を伸ばして おり、欧州議会選挙で党勢を盛り返すか否かが注目されていた。
(3)ドイツ
2017年9 月に行われた総選挙では、移民や難民の排斥を主張する「ドイツのための選択肢(AfD)」が、極右(極端な自国保護主義的思想)政党として第二次世界大戦後はじめて国政に進出するか否かが注目されたが、総議席709のうち92議席を獲得していきなり第3党に躍進した。逆に議席数を大きく減らした与党「キリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟(CDU/CSU)」は、長期に亘る協議を経て2018年3月に第2党である「社会民主党(SPD)」と再び連立政権を組み、世論に配慮して難民受入れ数に上限を設定するなど、それまでの難民に対する寛容姿勢を軌道修正した。また、2018年10月に行われたバイエルンおよびヘッセンの州議会選挙においてもCDU/CSUはAfDなどの野党に大きく議席を奪われる形で大敗する結果となり、2005年から長期にわたり 首相を務めたメルケル首相は、10月29日、党首辞任と2021年の首相任期満了に伴う政界引退を表明し、ドイツの政治情勢は大きな転換点を迎えている。
(4)イタリア
2018年3月に行われた総選挙で、「反移民」や「反ユーロ」などを掲げて議席数を大きく伸ばした左派色が強い新興政党「五つ星運動(M5S)」と極右的政策を掲げる「同盟(Lega)」が連立政権樹立に合意し、 2018年6月に西欧で初となるポピュリズム政権が誕生した。連立政権は、反EU、反エリート、反国際主義の立場を取り、ばらまき財政政策を次々発表した。注目されるのは“サルビーニ旋風“と言われる「同盟」をを率いるマッテオ・サルビーニ副首相兼内相である。サルビーニ氏は、経済低迷の原因はグローバル化にあるとし、自由貿易を推進するEUとEUの政策に従ってきた歴代政権への批判を繰り返して来た。イタリアがEU加盟国ワースト3位の10.6%と言う高失業率にあえぐ中、単純明快に「イタリア第一」を「同盟」のスローガンに掲げ、国内の政党支持率では今、40%近くまで伸びトップを独走している。サルビーニ氏はプーチン露政権と近いことでも知られている。2月末には「同盟」に対し、ロシアの組織が資金援助に動いたとの報道が流れた。「同盟」は否定しているが、今後、欧州議会での対ロ制裁解除に向けた動きを警戒する声は多い。
なお、5月末の伊レプブリカ紙によると、ばらまき予算を巡る両党の対立で連立政権は崩壊の危機に直面しているという。
(5)オーストリア
2017年12月18日、クルツ国民党党首は、移民(排斥)政策で右派ポピュリズム政党自由党に同調し連立を組むことで合意して右寄りの連立政権が発足した。クルツ党首が首相となり、31才という欧州で最も若い首相が誕生した。政権に極右政党が入るのは西欧ではオーストリアが最初だった。新内閣では、14人の閣僚の内、内相、外相、国防相など主要閣僚6人を自由党が占め、加えて副首相にはシュトラッヘ自由党党首が就いた。ところが、今年5月17日、シュトラッヘ氏がロシア人投資家とされる女性に利益供与を約束していた疑惑が浮上した。シュトラッヘ氏が副首相辞任に追い込まれたのに続き、クルツ氏の対応に不信感を持った自由党の全閣僚も辞任を表明し、連立政権が崩壊した。クルツ氏は早期に総選挙を実施する考えを示したが、野党は一連の混乱への首相の責任を明確にするため、不信任案提出に踏み切った。そして5月27日、内閣不信任案が下院で可決され、クルツ首相の退任が決まった。クルツ氏は9月に実施する見通しの総選挙に勝利することで、首相への返り咲きを狙う。今回のオーストリア政局の混迷は欧州議会選挙で各国の極右政党や右派政党の得票に影響するのではないかという見方も出ている。なお、5月26日の欧州議会選挙ではクルツ氏の国民党が社民党と自由党を大きく引き離して勝利している。
(6)イギリス
イギリス国内では欧州議会選挙への参加を見越して、ナイジェル・ファラージ氏が4月12日、新党「ブレグジット党」(Brexit Party)を旗揚げし、欧州議会選に出馬する意向を示した。この党首こそ、2016年、移民問題を激しく国民に煽り、キャメロン前首相に「変人、狂人、隠れ人種差別主義者」と言われながら、国民投票実行の機運を作った元ポピュリズム政党「イギリス独立党(UKIP)」の党首その人である。ブレグジット党はいわゆる「シングル・イシュー(一つの議題を焦点とする)」の政党で、「離脱すること」だけを目的とした党である。「離脱を実現できない政治家を含むエリート層に国民は裏切られた。だから私は戻ってきた」とファラージ氏は言う。直近の世論調査では与党をしのぐ30%近い支持率を得ている。一方で、チェンジUK党はEU残留を公約とし、同じく親欧州的な立場をとる自由民主党や緑の党と連携を模索している。今回の欧州議会選挙を「代理国民投票」とし残留を望む国民の声を自党の議席に反映させたい意向のようだ。
(7)スペイン
4月に行われたスペインの総選挙(下院、定数350)で、厳しい移民規制を訴えた極右政党「ボックス」が躍進して24議席を獲得し、初めて国政進出を果たした。スペインでは、1975年まで36年間続いたフランコ独裁政権に苦い経験から極右勢力が台頭しにくいとされてきた。しかし地中海を渡って大量の移民や難民が流入する中、2013年に結党されたボックスは不法移民の追放を公約に掲げ支持を拡大した。サンティアゴ・アバスカル党首は4月28日、「スペインのための政治を進める」と演説し、自国第一主義を鮮明にした。今回の選挙は欧州議会選挙の前哨戦としても注目されていた。一方、サンチェス首相率いる中道左派の与党・社会労働党は前回選挙より40議席近く議席を伸し123議席を獲得して第1党となったが過半数を大きく下回った。連立協議を進めると見られる急進左派「ポデモス」と合わせても過半数には届かなかった。
スペインで5月26日実施された欧州議会選では、与党・社会労働党が第1党となり、EUの主要ポストを狙う同党を勢いづかせる結果となった。社会労働党は20議席を獲得、保守派の国民党(PP)が12議席、中道右派シウダダノスが7議席、急進左派「ポデモス」が6議席、極右「ボックス」は3議席で世論調査ほど高くなかった。
(8)中・東欧
東欧では、2018年1月の時点で、15カ国中7カ国(ボスニア、ブルガリア、チェコ共和国、ハンガリー、ポーランド、セルビア、スロバキア)でポピュリズム政党が政権に就いている。
特に東欧の主要国でEUに加盟している、その歴史・伝統の類似性から地域協力組織を作っているヴィシェグラード4(V4と略す―その発端となった会議のハンガリーの開催都市の名から命名)」と呼ばれるポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアの4国では、難民問題で反EUを掲げる政党が政権に就いている。
+ポーランドでは、2015年にはポピュリズム政党「法と正義」が政権を獲得した。
+ハンガリーではヴィクトル・オルバン首相が2018年4月に3選を果たした。与党のフィデス=ハンガリー市民同盟とキリスト教民主党は85%の議席を得て、199議席のうち133議席を手中にした。
+特に注目されているのは、この2国では、報道の自由や司法の独立といった、主要な民主的制度が除去され始めたことである。例えばポーランドでは「法と正義」が旧共産党エリートの腐敗を批判し、その一掃を訴えたが、憲法裁判所がそれを取り消そうとすると、政府は対抗して、裁判官の権限を弱める法律を制定した。またハンガリーではオルバン首相が2010年に再任されたのち難民を批判し、国境にフェンスを作るなど非人道的にふるまい、彼に対抗しようとする憲法裁判所の権限を侵害しようと試みている。欧州委員会はオルバンを司法権の独立を侵害していると強く批判しているが、最終的にはそれぞれの国の政治的判断にゆだねるとしているに留まる。
+チェコでは、「チェコのトランプ」と評されるアンドレイ・バビシュが率いる政党
ANO2011が2017年10月の選挙で既存政治の腐敗体制を批判し、さらに難民受け入れの反対を訴え勝利した。
+スロバキアでは、2006年からの長期政権を維持している首相ロベルト・フィツォが難民排斥を訴える国民党と連立を組んでいたことから、「左派ポピュリスト」と呼ばれている。しかし、2018年3月、政権の汚職疑惑を追及していた記者が殺害された事件後の抗議運動でフィツォ首相が辞任に追い込まれた。これを追い風に、本年3月に行われた大統領選挙で、反汚職を訴える女性弁護士、ズザナ・チャプトバ氏(45)が勝利を決めた。チャプトバ氏は同国で初の女性大統領となる。6割近い票を獲得し、政権与党「スメル(道標)」が支持したシェフチョビッチ欧州委員会副委員長を引き離した。ポピュリズム(大衆迎合主義)が広がる欧州で、親EUのリベラル派が一矢を報いた。
(9)まとめ
欧州各国のポピュリズム政党躍進の大きなきっかけとなっているのは言うまでもなく難民・移民問題である。難民発生の根本原因である中東・アフリカ地域の紛争状態に即効性のある解決策がない以上、難民問題は今後も欧州でくすぶり続け、ポピュリズム政党はこれからも一定の支持を獲得し続けると考えらる。ポピュリズム政党の躍進は、既存のEU体制を大きく揺さぶっている。この度の欧州議会選挙でポピュリ ズム政党が大幅に議席数を伸ばし、発言力を強めるような事態になれば、EUが内部から変質していく可能性も否定できない。ただ、今年3月のスロバキア大統領選挙で見られたリベラル派の勝利や、ハンガリーやポーランドで起きている強権主義的な政権に対する反対運動の広がり、ドイツで緑の党が極右を上回る支持を集めていることなど、ポピュリズムの勢いに変化の兆しも見え始めている。
4.選挙結果(下図参照)
(1)2大会派が大敗
欧州議会が発表した開票結果(予測を含む)によると、これまで欧州議会を支配してきた親EU二大会派の「欧州人民党(EPP)」と「欧州社会・進歩同盟(S&D)」は合わせて80議席を失って大敗した。両会派の議席合計は412から332に減って、過半数(376議席)を失った。これは、国レベルでの既存政党に対する不満の高まりを反映するものである。今後はリベラル派の「欧州自由民主同盟」や「欧州緑グループ・欧州自由連盟」などと連立を図りながら親EU派で過半数を維持していくことになる。
(2)環境政党の会派が躍進
これに対して、選挙前には全く予測されていなかったドイツの緑の党など各国の環境保護政党で構成される「欧州緑グループ・欧州自由連盟(G/EFA)」が、議席数を49から74議席に増やす目覚ましい躍進を示した。その理由は、欧州では平均気温が年々上昇し、農作物への被害や突風や集中豪雨による損害が増え、地球温暖化問題が選挙の重要な争点の一つになっていたからだ。特にドイツでは、緑の党の得票率が前回の10.7%からほぼ2倍の20.5%に増え、AfDを抑えて第1党となった。同国の40歳未満の有権者の間では、緑の党への人気が最も高かったようだ。環境問題が欧州の政局を大きく左右する時代になって来たのかも知れない。
(3)ポピュリスト3会派も議席数を増やしたが過半数には遠く及ばず。
選挙前の予測では、ポピュリスト勢力が過半数を確保してEUの弱体化を試みるのではないかという懸念が出されていたが、彼らは勢力の結集に失敗し、恐れられていたポピュリスト勢力の圧勝は起きなかった。欧州議会には下記の3つの右派ポピュリスト会派がある。
●「自由と直接民主主義のヨーロッパ(EFD)」:ドイツのAfD、イタリアの五つ星運動、英国のブレグジット党が所属する。
●「国家と自由の欧州(ENF)」:フランスのマリーヌ・ルペン党首が率いる国民連合(RN)、イタリアの「同盟(レガ)」、オランダの自由党が所属する。
●「欧州保守改革グループ(ECR)」:ポーランドの「法と正義(PiS)」などが所属する。
+今回、EFDが48から54、ENFが37から58へと議席を増やしたが、ECRは逆に70から64へと議席を減らした。この3つの会派の合計獲得議席数は176で、選挙前の155から21議席増えたが、これにEU批判派の左派「欧州統一左派・北方緑の左派同盟グループ(GUE-NGL)」(52から38へ減)を加えても214議席で、議会の過半数(376)には遠く及ばない。
+3会派の中では、特にENFの躍進が目立った。同会派の議席数は37から58へ増えた。フランスではルペンのRNの得票率が23.5%に達し、マクロン大統領の共和国前進22.5%を超えて首位に立った。イタリアでもサルビーニ党首が率いる右派ポピュリスト政党「同盟」が、得票率を前回の6.2%から5倍以上の約34%に増やして圧勝した。一方、「五つ星運動」は約17%と低迷した。
+EFDもまた、議席数を42から54議席へ増やした。
イギリスの場合、EUを離脱してしまえば欧州議会とは全く関係がなくなるため、議会選に参加して欧州議会に議席を得ることにそもそも意味はない。しかし、離脱が実現出来ない現状で、ナイジェル・ファラージが立ち上げた「ブレグジット党」が大勝利を収め、欧州議会でイギリスに割り当てられている72議席の内29議席(有効票全体の31.6%)を占める第1党となった。これに続いたのが自由民主党(16議席、同20.3%)で、保守党は15議席を失い4議席(9.1%)のみを残す第5党に後退した。2016年の国民投票で離脱に票を投じ、未だ離脱が実現していないことに失望した国民が支持したブレグジット党が第1党に、国民投票では残留を選択し、離脱の決定を取り消すか、再度の国民投票を望んでいる国民が支持した自民党が第2党になったことが今回のイギリスでの選挙の特徴である。保守党、労働党の2大政党が大敗した理由は、保守党の場合、EU離脱を標榜している党であり実質的な選挙運動は全くしていなかった。また、労働党は「離脱支持なのか、残留支持なのかが不明確だった」ことで、こちらもほとんど選挙運動をしていなかった。
いずれにせよ、EUにとっては、離脱までの期間反EUのイギリス議員が多数欧州議会に在籍することは百害あって一利もないであろう。
また、ドイツのAfDの得票率11.0%は前回の欧州議会選挙より3.9ポイント伸びたにとどまった。同党が2017年のドイツの連邦議会選挙で見せたような爆発的な躍進は実現しなかった。またイタリアの左派ポピュリスト政党「五つ星運動」の得票率は16.7%に留まり、国内で第3党の地位に甘んじた。
(4)自由市場経済を重視する会派も議席数を増やした。
自由市場経済を重んじる会派の欧州自由民主同盟(ALDE/R)が議席数を67から106へ39議席増やして欧州議会で3番目に大きな会派となった。自由競争や小さな政府を標榜する親EU派の政党が集まっている。ALDEが躍進した最大の理由は、フランスのマクロン大統領が率いる「共和国前進」が属するグループが加わったことである。マクロン氏は5月の第1週に「欧州議会選挙の後、親EU勢力を結集して『ルネサンス』という新しい会派を作る」という方針を明らかにしている。前述したように、EPPとS&Dは、ALDEまたは環境保護勢力と連立して過半数を確保しようとする可能性が強い。
(5)投票率の上昇
今回の投票率は前回(2014年:42.6%)に比べて8.3ポイントも増えて約51%となった。これは過去20年間で最高の投票率だと言う。世論調査機関は、1979年の第1回選挙以来減る傾向にあった欧州議会選挙の得票率が大きく上昇した理由は、若年層の間で投票者が増えたからと推定している。これは、一つには、ポピュリズム政党の躍進に危機感を抱いた有権者が、広く選挙に参加したためとみられる。特に、若者の参加率が高かったとのことである。ドイツでも投票率がここ20年40%台であったのが、今回は60%に上昇した。
<選挙結果>
会派別議席獲得数(2014年との比較)
|
会派名
政治路線
|
主な構成政党
|
2014年
|
2019年
議席占有率
|
増減
|
親EU
|
EPP(欧州人民党グループ)
Group of the European People's Party
(Christian Democrats)
|
CDU・CSU(独)
共和党(仏)
自由の人民(イタリア)
市民プラットホ-ム(ポーランド)
国民党(スペイン)
|
221
|
179
22.2%
|
− 42
|
親EU
|
S&D(社会民主進歩同盟グループ)
Group of the Progressive Alliance of
Socialists and Democrats in the European Parliament
|
社会民主党SPD(独)
社会党(仏)
民主党(イタリア)
社会労働党(スペイン)
社会民主党(ルーマニア)
労働党(英)
|
191
|
153
20.4%
|
− 38
|
親EU
|
G/EFA(欧州緑グループ・欧州自由連盟)
Group of the Greens/European Free Alliance
|
同盟90/緑の党(独)
ヨーロッパ・エコロジー=緑の党(仏)
|
49
|
74
10.8%
|
+25
|
親EU
|
ALDE&R(欧州自由民主同盟グループ)
Alliance of Liberals and Democrats
|
自由民主党LD(英)
自由民主党FDP(独)
共和国前進REM(仏)
|
67
|
106
13.0%
|
+ 39
|
EU批判派
|
GUE-NGL(欧州統一左派・北方緑の左派同盟グループ)
Confederal Group of the European United Left
- Nordic Green Left
|
左翼党(独)
ポデモス(スペイン)
急進左派連合スィリザ(ギリシャ)
|
52
|
38
5.4%
|
−
14
|
反EU
|
ECR(欧州保守改革グループ)
European Conservatives and Reformists Group
|
保守党(英)
市民民主党(チェコ)
法と正義(ポーランド)
|
70
|
64
7.7%
|
− 6
|
反EU
|
EFD(自由と直接民主主義のヨーロッパ)
Europe of Freedom and Direct Democracy Group
|
AfD(独)
五つ星運動M5S(イタリア)
ブレグジット党(英)
|
48
|
54
7.9%
|
+ 6
|
反EU
|
ENF(国家と自由の欧州)
European Free Alliance
|
国民連合RN(仏)
同盟Lega(イタリア)
自由党PVV(オランダ)
|
37
|
58
8.7%
|
+ 21
|
|
NI(独立派)
|
Independent MEPs
|
16
|
9
1.0%
|
− 7
|
|
その他
|
New or unaffiliated
MEPs
|
|
16
3.0%
|
+ 16
|
|
|
|
751
|
751
|
|
5.選挙結果の評価
今回の欧州議会選挙は、親EU派と反EU派勢力が対決する「欧州の未来を占う選挙」、「EUに関する国民投票」と呼ばれ、市民の関心が非常に高かった。
これまでEUの強化を主導してきた大連立を組むEPPとS&D の2大会派が大敗し過半数を失ったが、議席を伸した親EUのALDEやG/EFAと連立すれば、なお親EU会派は3分の2の議席を堅持できることが公式推計で明らかになった。しかし勢力が分散する分、これまでに比べ議会における政策調整が難しくなる。しかし、これは単に欧州議会だけの問題ではない。むしろ、それぞれの加盟国で欧州政治の本流だった既成政党の衰退が加速し、反EU勢力が伸長していることに伴い、今後、EU首脳会議やEU理事会などEU最高レベルでの政策調整が円滑に進まなくなることを示唆する選挙結果となったと言えるかも知れない。
一方、ポピュリズム政党は議席を大きく伸ばしたが当初警戒されたほどではなかった。反EU派の獲得議席数は214議席で、議会の過半数(376)には遠く及ばなかった。
これは、一つには、ポピュリズム政党の躍進に危機感を抱いた有権者が、広く選挙に参加したためとみられる。欧州の選挙では一般に、投票率が低いとポピュリスト政党の議席数が増える傾向にある。だが、今回は若者を中心に投票率が高まったことがポピュリスト政党の大幅な躍進を防いだものと見られる。もう一つは、ポピュリズム政党間で、「現在のEUが欧州の問題の諸悪の根源」と見なす点を除けば共通点が少ないことだ。財政政策、経済政策、地球温暖化対策などでは大きな違いがある。3つの会派が1つになれないのはそのためである。今回の選挙がEUについての信任投票の意味も持っていたとすれば、EUの主権者の大半が依然EUを支持していることが明らかになったと言えよう。また、その結果をもたらしたのが若者の投票率の高さだったことも注目される。
また、これまで多くの欧州人にとって遠い存在であった欧州議会に対する関心が、イギリスのEU離脱問題で高まった。欧州議会の存在感が増し、欧州議会の正当性が広く認められたことになる。
この選挙結果は、秋に任期満了を迎える欧州委員長や欧州理事会常任議長(EU大統領)などEUの要職人事に影響を及ぼす。選挙結果を踏まえ、首脳間で欧州委員長を誰にするのか話し合いが既に本格化しており早くも独仏間で主導権争いが激しくなっている様子が伝えられている。
以上
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