米大統領選挙の結果について

まだゴネていますが、トランプ大統領の命運も風前の灯となり、世界を巻き込んだ米国政治の騒乱の4年間が漸く終幕を迎えようとしています。今回の選挙は、勝利したバイデン前副大統領への期待と言うより、トランプ氏の続投だけは絶対に阻止すると言う、怒りに満ちた民意がもたらした変化と言えるでしょう。科学的根拠を無視し、自己利益と国益を混同し、安全保障で専門家の意見を無視するなど、資質や品位を欠くトランプ氏の大統領としての適格性について、極めて多くの米国民がノーを突きつけたのです。

しかし、得票数を見れば、バイデン氏の7,800万票に対し、トランプ氏も7,300万票を獲得し2016年の前回選挙の6,300万票を大きく上回りました。双方が7,000万票を越える接戦に、トランプ政権下でアメリカの分断が更に進み、“一国2国民”と言えるほどに分裂してしまっていることにショックを受けました。最終的に敗北が決まっても、恐らくトランプ氏は大衆の注目を集め続け、共和党内で強い発言力を維持し、次回24年の大統領選挙では、候補者指名に大きな影響力を振るうと思われます。つまり、アメリカでは、今、「トランプ主義」とも言える新たなポピュリズム(大衆迎合主義)が生まれ、これが今後も国内外に深刻な影響をあたえ続けるのではないかと懸念されます。

新型コロナウイルスによる未曾有の危機の中、今回の選挙は、非難と中傷の応酬に終始し、世界の自由主義陣営を牽引してきた米国の異様な光景に唖然とするばかりでした。

しかしその一方で、投票所では何時間も粘り強く順番を待つ人の列が出来、有権者が投じた一票一票を最後まで数える努力がなされ、結果として66%と言う高い投票率の選挙が行われたことに、米国の民主主義がなお逞しく機能していることも窺い知ることが出来ました。

 

● カマラ・ハリス次期副大統領のスピーチについて

話変わって、バイデン氏が副大統領候補として指名していた黒人女性カマラ・ハリス氏に注目が集まっています。11月7日に行われたバイデン氏の勝利演説で、前座を務めたハリス氏は、自らが副大統領に就任する意義などについてスピーチしましたが、その内容が超感動!とTwitter等で話題沸騰しているようです。今回はそのスピーチ全文を日英両文で紹介します。

ハリス氏の人となりについて、公開資料によれば、19641020日生まれの56歳。法律家・政治家で2017年から上院議員を務めています。ジャマイカ系黒人の父とインド系の母を持つ移民2世で、女性・黒人としてだけでなく、アジア系の血を引く初の副大統領となります。カリフォルニア大法科大学院を修了後、検事として活動。カリフォルニア州司法長官から上院議員に転じました。検事時代は麻薬犯罪撲滅に辣腕を振るい、上院でも司法委員会の論客として活躍しました。民主党の大統領候補指名争いに名乗りを上げた際には、討論会で最有力候補のバイデン前副大統領を相手に、人種問題で論戦を挑みました。強い女性、怖い女性というイメージがあるようですが、本人も「こわもて」イメージが広がるのを避けるためか、今回の演説では、亡き母のエピソードを盛り込むなどソフトな面を強調しています。このスピーチで特に視聴者の判を呼んでいるのは、「この(副大統領)職に就く女性は、私が最初かもしれないが、最後ではないでしょう。何故なら、今このシーンを見ている幼い少女達は皆、米国が可能性の国だと知ったからです。」と述べた部分です。

また、長い間、社会的弱者の進出を阻んできた「ガラスの天井(*)」を突き破る黒人女性が出現したことで更に注目度が増しているようです。ハリス氏の副大統領への就任は、ガラスの天井に大きなひびを入れ、米国の政治の様相を一変させる可能性を秘めるとの評価もなされているようです。

(*)ガラスの天井 glass ceiling)とは、資質又は成果にかかわらず、マイノリティや女性の組織内での昇進を妨げる、「見えないが、打ち破れない障壁」のことを言う。

 

なお、このスピーチについては、ほとんどの我が国のメディアが翻訳していますが、かなりいい加減で不正確なものが多いため、これらを参考にしつつも自分なりの日本語で全訳してみました。

 

                       令和21118日 松井茂基

 

令和21118

 

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アメリカ初の女性次期副大統領カマラ・ハリス氏のスピーチ

 

11月7日、米副大統領への就任が確実となり、

東部デラウェア州ウィルミントンで演説するカマラ・ハリス氏

 

 

こんばんは。ジョン・ルイス下院議員(*)は亡くなる前に、「民主主義は状態ではない。行動である」と書きました。その意味するところは、アメリカの民主主義は決して保証されているわけではないということです。私達がそのために闘い、守る意志があってこそ強いものになります。当然のものとして受け止めてはなりません。民主主義を守るためには、苦しい闘いがあります。犠牲を払います。だが、喜びもあり進歩もあります。何故なら、私達には、より良い未来をつくりだす力があるからです。

 

Good evening. Congressman John Lewis, before his passing, wrote: “Democracy is not a state. It is an act.” And what he meant was that America’s democracy is not guaranteed. It is only as strong as our willingness to fight for it, to guard it and never take it for granted. And protecting our democracy takes struggle. It takes sacrifice. There is joy in it and there is progress. Because we the people have the power to build a better future.

 

*ジョン・ルイス米下院議員

公民権運動の黒人の英雄。アラバマ州の小作農の息子として生まれたルイス氏は、米国における公民権運動の中心人物。1960年代に学生非暴力調整委員会の委員長を務めたルイス氏は、1963年のワシントン大行進を率いたリーダーの1人でもある。その後はジョージア州選出の連邦下院議員として当選。1987年から死去するまで議員を務めた。本年717日、80歳で没

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今回の選挙で問われたのは、私達の民主主義そのものでした。アメリカの魂そのものが問われました。世界中が注目する中、皆さんは新しい時代をアメリカにもたらしてくれました。

And when our very democracy was on the ballot in this election, with the very soul of America at stake, and the world watching, you ushered in a new day for America.

 

 

選挙陣営のスタッフの皆さん、ボランティアの皆さん、このすばらしいチームの皆さんに、感謝します。かつてないほど多くの国民をこの民主的プロセス(大統領選挙)に連れて来てくれました。そしてこの勝利を可能にしてくれたのです。投票所の係員や選挙管理にあたる皆さんが、全国で全ての票の集計を根気強く進めています。皆さんが、私達の民主主義を傷つけないように守り抜いてくれたのです。この美しい国を作り上げているアメリカ国民の、かくも沢山の皆さんが、自分の声を反映させるために一票を投じて下さったことに感謝します。

 

To our campaign staff and volunteers, this extraordinary team, thank you for bringing more people than ever before into the democratic process and for making this victory possible. Thank you to the poll workers and election officials across our country who have worked tirelessly to make sure every vote is counted. Our nation owes you a debt of gratitude as you have protected the integrity of our democracy. And to the American people who make up our beautiful country, thank you for turning out in record numbers to make your voices heard.

 

 

特にこの数カ月は大変な時期でした。嘆き、悲しみ、そして痛みがありました。不安も困難もありました。しかし皆さんの勇気、不屈の精神、寛容な精神を目の当たりにしました。4年間にわたって皆さんは、平等や正義、私達の命のために、そして私達の地球のために前へ進み、団結してくれました。皆さんは(我々に)投票して下さったのです。はっきりとしたメッセージを届けてくださいました。皆様は、希望を、結束を、良識を、科学を選んでくれました。そうです、真実を選んでくれたのです。ジョー・バイデンを次期アメリカ合衆国大統領として選んでくれたのです。

I know times have been challenging, especially the last several months. The grief, sorrow, and pain. The worries and the struggles. But we’ve also witnessed your courage, your resilience, and the generosity of your spirit. For four years, you marched and organized for equality and justice, for our lives, and for our planet. And then, you voted. You delivered a clear message. You chose hope, unity, decency, science, and, yes, truth. You chose Joe Biden as the next President of the United States of America.

 

 

 

ジョーは、傷をいやしてくれる人です。結束させる力の持ち主です。信頼できる確かな手腕の持ち主です。彼の使命感は大切な人を失った自身の経験に根ざしており、それは、私達が国としての使命感を取り戻す“よすが”になるでしょう。非常の大きな愛のある、心の大きな人です。妻のジルを愛しています。ジルは素晴らしいファーストレディーになるでしょう。ジョーは、次男のハンター、娘のアシュリー、そして孫たち、家族全員のことを愛しています。私が副大統領だったジョーを知ったのは、ジョーが私の大切な友人のボー(*)の父親であったことでした。今日は(亡くなった)この友人のことも偲びたいと思います。

 

Joe is a healer. A uniter. A tested and steady hand. A person whose own experience of loss gives him a sense of purpose that will help us as a nation reclaim our own sense of purpose and a man with a big heart, who loves with abandon. His love for Jill, who will be an incredible first lady. His love for Hunter and Ashley and his grandchildren and the entire Biden family. And while I first knew Joe as Vice President, I really got to know him as the father who loved Beau, my dear friend, who we remember here today.

 

ボー:バイデン氏の長男。元デラウェア州司法長官。2015年に脳腫瘍のため他界。

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私の夫ダグ、子どものコールとエラ、妹のマヤ、そして家族全員に対し、私も言葉では言い尽くせないほどの大きな愛を感じています。ジョーとジルが、この素晴らしい旅路に向け、私達家族を自分達のもとへ迎え入れてくれたことに感謝するばかりです。

To my husband Doug, our children Cole and Ella, my sister Maya, and our whole family, I love you all more than I can express. We are so grateful to Joe and Jill for welcoming our family into theirs on this incredible journey.

 

 

そして、いつも私達の心の中にいる母シャマラ・ゴーパラン・ハリス(*)の存在なくして、今日私がこの場所に立っていることはあり得なかったでしょう。19歳でインドからやって来た母は、こんな瞬間が訪れるなんて夢にも思っていなかったでしょう。しかし、彼女はこんな瞬間を可能にする国アメリカを深く信じていました。

 

And to the woman most responsible for my presence here today, my mother, Shyamala Gopalan Harris, who is always in our hearts. When she came here from India at the age of 19, she maybe didn’t quite imagine this moment. But she believed so deeply in an America where a moment like this is possible.

*母親シャマラは、2009年に亡くなった。

 

 

 

今、私は、母のこと、そして今夜のこの瞬間へ至る道を、我が国の歴史を通じて切り開いて来た何世代にもわたる女性達―黒人女性、アジア人、白人、ラテン系、先住民の女性達のことを思うのです。あまりに頻繁に無視されてきた黒人女性を含み、全ての人の平等、自由そして正義ために闘い、多くを犠牲にして来た女性達は、自分達が我が国の民主主義の屋台骨であることを何度も証明してきたのです。

 

So, I’m thinking about her and about the generations of women, black women, Asian, , Latina, and Native American women throughout our nation’s history who have paved the way for this moment tonight. Women who fought and sacrificed so much for equality, liberty, and justice for all, including the Black women, who are too often overlooked, but so often prove that they are the backbone of our democracy.

 

 

全ての女性達は、投票する権利を保証し、守るために1世紀以上に及ぶ努力を傾けてきました。100年前には憲法修正第19(1)を、55年前には投票権法(2)を、そして2020年の今日、この国の新たな世代の女性達は、一票を投じて自分達の意思を示すという基本的権利を守る戦いを続けています。今夜、私は、何をすれば女性達が開放されるかについて挑んできた彼女たちの苦闘や決意、及び先見の明を思い起こしています。私は彼女達の偉業を手本にします。

 

 

All the women who worked to secure and protect the right to vote for over a century: 100 years ago with the 19th Amendment, 55 years ago with the Voting Rights Act, and now, in 2020, with a new generation of women in our country who cast their ballots and continued the fight for their fundamental right to vote and be heard. Tonight, I reflect on their struggle, their determination and the strength of their vision to see what can be unburdened by what has been. And I stand on their shoulders.

1:アメリカ合衆国憲法修正第19Nineteenth Amendment to the United States ConstitutionAmendment XIX)は、合衆国の各州ならびに連邦政府が市民の性別を理由に市民の投票権を否定することを禁じている。修正第19条は、女性参政権を具体的に拡張することが意図された。

 

 

 

21965年投票権法は、アメリカ合衆国議会で成立し、投票時の人種差別を禁じたことで、一時代を画した法である。196586日、公民権運動の高まりの中で、リンドン・B・ジョンソン大統領が署名して法制化された。

 

 

 

ジョーは何と言う大胆な性格の持ち主なのでしょうか。彼はこの国に存在する最も堅固な障壁の一つを打ち破り、女性を副大統領に選んだのです。私は副大統領職に就く最初の女性と言うことですが、しかし、私が最後の女性ではありません

And what a testament it is to Joe’s character that he had the audacity to break one of the most substantial barriers that exists in our country and select a woman as his Vice President. But while I may be the first woman in this office, I won’t be the last.

 

 

何故なら、このシーンを見ている全ての幼い女の子達がこの国は可能性の国だと知ったからです。この国は、性別を問わず子供達に対して、はっきりとしたメッセージを送りました:大志を抱いて夢を見よう。信念を持って先頭に立とう。そして自分流のやり方で自分を見出そう。つまり他人が今まで決して知らなかったやり方でです私達はそれに向う皆さんの一歩一歩を応援します。

Because every little girl watching tonight sees that this is a country of possibilities. And to the children of our country, regardless of your gender, our country has sent you a clear message: Dream with ambition, lead with conviction, and see yourself in a way that others might not see you, simply because they’ve never seen it before. And we will applaud you every step of the way.

 

 

アメリカ国民の皆さん、皆さんが誰に投票したかに関係なく、私はオバマ大統領時代のジョーのような副大統領になるよう努力します。忠実で、誠実で、準備を怠らず、目を覚ませば、いつも皆さんや皆さんの家族のことを考えている副大統領にです。今、本当の仕事が始まる時です。困難な仕事です。必須の仕事です。素晴らしい仕事です。このウイルスから人々の命を救い、パンデミックに打ち勝つために欠かせない仕事です。働く人々が恩恵を受けられるように経済を立て直します。私たちの司法制度や社会にはびこる構造的な人種差別を根絶することにも取り組みます。気候変動の危機と闘い、国を結束させ、アメリカの魂の傷を癒やします。

To the American people: No matter who you voted for, I will strive to be the Vice President that Joe was to President Obama. Loyal, honest, and prepared, waking up every day thinking of you and your families. Because now is when the real work begins. The hard work. The necessary work. The good work. The essential work to save lives and beat this pandemic. To rebuild our economy so it works for working people. To root out systemic racism in our justice system and society. To combat the climate crisis. To unite our country and heal the soul of our nation.

 

 

 

目の前に広がる道は決して平坦ではありません。けれども、アメリカは準備ができています。ジョーと私もそうです。私達は、私達にとって最良の大統領を選びました。世界や子供達が尊敬出来るような指導者をです。ジョーは、我が軍隊に敬意を払い、国の安全を守る最高司令官です。そして全てのアメリカ国民のための大統領です。最高に名誉なことですが、今からアメリカ合衆国次期大統領、ジョー・バイデン氏を紹介させていただきます。

The road ahead will not be easy. But America is ready. And so are Joe and I.

We have elected a President who represents the best in us. A leader the world will respect and our children can look up to. A Commander-in-Chief who will respect our troops and keep our country safe. And a President for all Americans. It is now my great honor to introduce the President-elect of the United States of America, Joe Biden.

 

以上

 

The End

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