高市首相は就任早々に、厳しさを増す安全保障環境に対応するため国家安全保障戦略など
「安保関連3文書」の見直しを前倒しでスタートさせた。
本格的な防衛体制強化に向けたリーダシップは大変心強いものがあるが、この年末年始に
わが国の安全保障にも重大な影響を及ぼす事案が生起した。
この新たな安全保障の情況を踏まえて安保論議を進めて欲しい。
新年迫る年の瀬に、中国が台湾を威嚇する「正義使命―2025」と称する大演習を強行した。
『台湾独立』を唱える分離主義勢力と外部からの干渉勢力に対する厳重な警告発出が目的
だとし、台湾を包囲するように海空演習区域を設定し実弾射撃や海上・港湾封鎖訓練など
を実施した。このような恫喝的な台湾包囲の軍事演習は今回で4回目であるが、正にサラミ
戦術と呼ぶ既成事実を積上げる浸潤策で、回を重ねる毎に演習規模を拡大し、台湾領域へ
近づいている。
演習以上に問題なのは、「これまでも行われており問題なし」と黙過したトランプ米大統領
の発言である。中国とのディール配慮かと推測されるが、中国の習近平国家主席の誤判断
を招く危険な発言だと認識すべきであろう。
トランプ大統領の訪中は4月と予測され、その後に習近平国家主席が訪米する説もあり
米中接近の動きが不気味である。
米国に有利な通商合意を引き出す代わりに、台湾問題でトランプ大統領が譲歩すれば、
中国は米国の反発を恐れることなく強気な行動に出る危険性が高まり、日本への威圧も
一段と強まるであろう。
トランプ大統領は米中間の通商や安全保障の懸案を処理しようとして習近平国家主席への
接近を隠さないが、同盟国日本との連携を図る気配が見えない。最悪の場合、密室で米中
の緊張緩和が進み、日本は、はしごを外されかねない。
2025米国家安全保障戦略(NSS)では、先ず「米国の利益第一」を謳い、対外戦略上の
最優先は南北米大陸の西半球であるとし、次いでインド太平洋の重視を掲げているものの、
対中戦略として、米単独での防衛を避けて、日本や韓国などに前面に立つ役割を果たすよう
求めている。
対中戦略上、米国が真に信頼できる協力相手なのか再考し対備する必要があろう。
続いて新年の、米国が強行したベネズエラ大統領拘束の電撃作戦である。
国家安全保障戦略で重視する西半球で最も反米的で、中国、ロシアとの関係を深める
マドゥーロ政権を転覆したいのがトランプ政権の狙いであった。昨夏から空母打撃群を
ベネズエラ周辺に遊弋させ、軍事侵攻まで予想されていた。
今回の衝撃的な斬首作戦は、防空網の制圧から内通者との連係まで実に周到な計画・準備
のもとで極めて成功裡に行われた。西半球中心の米国安全保障戦略をまさに象徴するような
力ずくの侵攻である。ベネズエラに突然侵入して国家主権を犯し、現職大統領を連行した
斬首作戦は、「力による現状変更」そのもので国際法に違反すると非難されているが国際社会
の反発は限定的である。国連安保理での米国制裁には、拒否権行使で成立しない。
同盟国が米国を批判すれば、東半球の日本や他の同盟国の安全保障への関与が減退する
恐れがある。
東アジアの安全保障には米国の軍事プレゼンスが不可欠であり直接的な米国批判は
なかなか難しい。欧州も同様にウクライナ支援やNATOからの撤退へと進展する可能性
もあり同様のジレンマを抱えている。
非常に問題なのが「大国の力による現状変更」の横行である。ロシアのウクライナ侵攻や
中国の南シナ海での一方的な島嶼領有など権威主義的国家による現状変更を批判しに
くくなり、危惧される中国の台湾侵攻に対しても現状変更するなと糾弾しにくくなる。
「弱肉強食」の帝国主義的な行動への回帰が「法の支配」を凌駕する国際社会の現実を
見つめて安保論議を進めなければならない。
このような新たな安全保障の情況を踏まえて我が国は、「安保関連3文書」の見直しを
行うことになる。
特に、中国の「力による現状変更」の軍事行動の拡大と米国の関与・コミットメントの
低下には的確な対応がもとめられよう。東アジアの平和と安全には日米韓の緊密な連携
が不可欠であるが、中国は日米韓の離間を図ろうと画策しよう。
戦後、一貫して米国に頼ってきた我が国の防衛であるが、最早、全面的な米軍来援、
軍事力行使は期待できない。やはり他力本願を脱して自分の国は自分で守る国防体制
を確立する必要がある。
単に正面の兵器・装備システムや防衛予算の拡大に留まらず日本の国家としての
総合的な防衛力の強化、防衛体制の確立が望まれる。
そのためには占領下制定された現憲法の不備是正が必須の要件である。
(遠望子)