トランプ米大統領の肝煎りのウクライナ停戦協議の行方に世界中が固唾を飲んでいるが、
その先に危険視される東アジア台湾事態への関心・注目度は低調である。
しかし事態は着実に危険の度を高めている。停戦協議の帰趨は、台湾有事、朝鮮半島問題
を抱える東アジアに直接波及する。わが国防衛の重大関心事である中国・習近平国家主席は、
歴史的に一度も統治したことがない台湾を自国の領土であると主張して、独立の動きを極度
に警戒し、武力を行使してでも必ず統一を成し遂げると誓っている。
先月の「反国家分裂法」20年記念の共産党最高指導部メンバーによる座談会でも「祖国の
完全統一を実現する」と決意表明した。
中国軍は台湾を取り囲む形で大規模な統合演習を繰り返し、演習区域も徐々に台湾本島に
近づいている。また、「パトロール」と称し多数の戦闘機や艦艇を活動させ、海洋警察も
加えている。この常態化した軍事活動は何時でも海上・港湾封鎖あるいは武力攻撃に転じる
危険性がある。更には、台湾の混乱、転覆を狙う浸透工作が次々に生起している。
インフラへのサイバー攻撃、ソフト戦略による認知戦や軍人、議員を含む台湾人の抱き込み、
スパイ化が進んでおり、武力攻撃には至ってないが日増しに中国のグレーゾーン攻勢の頻度・
熾烈度が高まっているのである。
台湾・頼清徳総統は就任以来、「台湾は中国に隷属しない」と再三に表明し、中国による統一
に反対している。昨年末成立の「反浸透法」に照らして中国は「域外敵対勢力」だと指摘して
いる。迫りくる中国の脅威に対し台湾は即時戦闘準備演習を全国で展開し軍の即応能力強化を
図っている。
今年の「漢光」軍事演習は規模・期間を大幅に拡大して具現化する中国の侵攻への作戦能力の
飛躍向上を狙うと言う。国防予算は国内総生産(GDP)比3%以上に増額し、米国からの
武器購入により正面装備を増強するとともに無人機などの安価で機動性のある「非対称戦力」
の構築や市民動員による重要インフラの保護など国土防衛力の強化に余念がない。
台湾の人々の多くは「イザとなったら米軍が助けに来る」「中国は武力侵攻しないだろう」
との希望的観測が大半を占めると見られていたが、二つの意識変化に注目したい。
一つは、中国が本格的な侵攻を前に様々な工作を仕掛け、台湾を追い詰める様子を描いた
ドラマである。民間人自らが市民に向けて、中国の台湾侵攻への認識覚醒と自己防衛について
警鐘を鳴らしている。
もう一つは「疑米論」の浮上である。台湾人の57%が米国の軍事介入について疑問視して
おり、2020年以来の世論調査で最も高まったと言う。
ウクライナ戦争への米国のスタンス、台湾への「戦略的曖昧」コミットメント、加えて
トランプの「ディール戦略」に対米信頼性が低下している。台湾人の「自分の身は自分で守る」
意識の高まりが感じられる。
さて日本はどうであろうか。「台湾有事は日本有事」との認識に立ち、南西方面への防衛体制
の強化や先島諸島の住民避難計画などの進展は評価できるが、未だ未だ不十分である。多国間
の防衛協力、共同作戦を念頭に台湾事態に備えた法整備などを急がねばならない。
台湾有事はいつ起こってもおかしくない。 遠望子